指先
顔中に軽くキスされて、くすぐったいので顔をそむけた。
そんな僕を見てくすくすと笑う声が聞こえて、また視線を戻すはめになる。
僕が見上げている人は、まだアコライトの服を身につけたままだった。
「かわいいなあ」
誉められるのは嬉しいけど、そういうふうに言われるのは心外だ、
そう思って抗議しようとしたのだけど、首筋を丁寧に舐められて体が竦む。
喉から出かかった言葉を知っているのかどうか、彼は楽しそうな表情を崩さない。
結局いつも無駄になってしまうけど、服の裾に伸びてきた手を止めようとしたらこう耳に吹き込まれた。
「……そうしてると、初めての子みたいだよ」
ぎょっとしたと同時に、よくわからない怒りみたいなものが湧いてきた。
なんだか子どもっぽいな、と自分でもわかっているけどむっとした顔になるのは止められない。
「……僕は女の子じゃありません」
彼は一瞬動きを止めて、それからごめんごめん、と首を振った。
「そういう意味じゃないんだ……でも、訂正する」
悪戯っ子みたいな顔をして、彼は突然僕のそれを握った。
「ひゃっ!?」
「初めての頃はこんなに反応しなかったね?」
そう言われて、無意識のうちに次を期待している自分に気が付いて顔が熱くなった。
いまさら隠すこともないけれど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。
彼の顔を見ていられなくて、傍らの枕に顔を埋めた。
いつものように自分の方を向かせるでもなく、彼はゆっくりと僕の片手をとる。
爪を最後に切ったのはいつだっけ、と全然関係ないことをぼんやりと考えた。
二人とも部屋に入ったときからグローブは外していたので、彼の器用な指先と
剣を握るしか能のない僕の手が触れ合っていることになる。
指の腹を何回か撫でられると、体が軽く跳ねるのを止められない。
満足気に笑う気配がしたと思うと、中指が温かい口の中に含まれる。
ぬるりと這う舌から逃げたくて首を振っても、彼は離してくれなかった。
満足いくまでそのままで、それがきっちり五本分。
器用な口と手の持ち主は、時々とても意地悪になる。
おまけとばかりに軽く口付けられて、ようやく手が自由になった。
「こっち、向いて」
血の上った顔を見られるのは嫌だったけど、嫌われたくなくて顔を元に戻した。
もう片方の手をつかんでいたその人は、そういうところもスキ、と綺麗に微笑んだ。
その笑顔があんまり綺麗で、彼のその顔が一番好きだから、僕は今日もごまかされることにした。
彼の手を引き寄せて、爪の先にキスをする。
「僕も好きです」
お返しに笑ったら、びっくりしたその人は、今度は唇に長いキスをくれた。
End.
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